1. オムニバスローとはオムニバスローの目的は、①雇用機会の創設と拡大、②すべての市民が職・賃金、職場における公平な待遇を受けられるようにすること、③投資環境の向上のために様々な規制を調整すること等であるとされています。そして、オムニバスローでは、これらの目的を達成するために数多くの法律を一括して改正しています。といってもなかなかイメージを持ちにくいかもしれませんので、具体的にオムニバスローの抜粋を一部を見てみましょう。a. オムニバスロー77条投資に関する法2007年25号のうち、複数の条文を、以下の通り改正する。i)オムニバスロー77条1号(投資法)2条は以下の通り修正する(投資法)2条この法律の規定は、インドネシアの全ての業種における投資に対して適用され、主たる参照根拠となる。b. オムニバスロー109条有限責任会社に関する法2007年40号(注:会社法)のうち、複数の条文を、以下の通り改正する。i)オムニバスロー109条2号(会社法)7条は以下の通り修正する(会社法)7条1項:有限責任会社は、公証人作成のインドネシア語の証書により、2名以上により設立される。イメージがわきましたでしょうか。要するに、オムニバスローは、①どの法律の、②何条を、③どのように改正するのかを、数多くの法律に関してひたすら規定している法律になります。2. 外資規制への影響a. イントロダクション多くの日本企業がインドネシアに進出しています。最近はインドネシアの市場としての魅力の高まりを背景に、製造業だけでなく、ディストリビューター、建設業、広告業等の進出も目立ちます。インドネシアでは、ディストリビューターや建設業、広告業を含むさまざまな業種につき、「外資規制」が定められてきました。例えば、外資による投資はディストリビューターについては67%まで、建設業は67%まで、広告業は51%まで(シンガポール等ASEANエンティティーを通じた投資の場合)とされています。オムニバスローの制定により、各業種につき定められていた外資規制が一律に撤廃されることになるかもしれません。b. 改正前の投資法の枠組み改正前の投資法においては、①禁止業種と②制限付業種を除き、全ての業種が投資に開放されているとされていました。そして、禁止業種と制限付業種の内容や条件については、大統領令2016年44号でいわゆる「ネガティブリスト」の形で詳細が定められていました。ここでいう「制限付業種」が実務上「外資規制」と呼ばれているものの中心です。大統領令2016年44号のネガティブリストでは、以下のような形で制限付業種が定められていました(下表は要約です)。c. オムニバスローによる改正オムニバスローにより上記投資法12条は改正されました。改正投資法12条では以下のような規定とされています(以下は要約であり直訳ではありません)。i)禁止業種と政府の独占業種を除き、全ての業種が投資のために開放されている(改正投資法12条1項)ii)禁止業種は以下の通りとする(改正投資法12条2項)1. 麻薬の栽培等2. 賭博、カジノ3. 保護対象の魚の捕獲4. サンゴの捕獲等5. 化学兵器製造6. 化学産業、オゾン破壊物質産業iii)上記1項及び2項で定める投資の条件の詳細については、大統領により定める(改正投資法12条3項)お気づきでしょうか。改正前投資法12条1項に存在した、「制限付業種」が削除されています。改正前の投資法制において、ネガティブリストの中心的部分は、外資の持分比率の制限やその他の条件を定めた制限付業種でした。改正投資法では、「制限付業種」というコンセプトが廃止され、禁止業種以外は外資も自由に投資できることが予定されています。禁止業種は上記の通りであり、これらの業種に投資しようとする外資企業はほとんどいないと思います。そうすると理論上は、既存の外資規制(外資の持分比率の制限等)は一律に撤廃され、全ての業種について外資は100%投資できることが想定されているように思われます(ただし、上述の通り例外的な禁止業種は除きます)。d. 今後制定が待たれる「ポジティブリスト」改正投資法12条3項においては、「投資の条件の詳細については、大統領により定める」と定められています。2020年10月7日付インドネシア政府のプレスリリースによると、オムニバスローの施行規則として制定予定の大統領令では、「ネガティブリスト」という概念は廃止され、「ポジティブリスト」の形をとるとされています。現時点では「ポジティブリスト」の内容は不明であり、今後の動向を注視する必要があります。e. オムニバスローの施行により、全ての業種(禁止業種を除く)につき、すぐに100%外資による投資が可能になるのか?BKPM(投資調整庁)への照会によると、新たな大統領令が制定されるまでは現行の規制枠組みが維持されるため、現行ネガティブリストで外資規制が定められている業種については、当面はまだ解放されないとのことです。この記事は、インドネシアの法律事務所であるARMA Lawのインプットを得て作成しています。